スクリーンショット、ブックマーク、メモアプリの下書き、ChatGPTに投げっぱなしにした相談履歴。気づけば「あとで整理しよう」と思ったものがあちこちに散らばっていて、結局二度と見返さない。そんな状態を数ヶ月放置していた。
その散らかりを何とかしようと、Claude CodeとObsidianで個人用のナレッジベースを組み、さらに複数のAIエージェントに役割分担させて運用するところまで手を伸ばした。ただ、これを人に話すと大体「個人のメモ整理に、そこまでやる意味があるのか」と聞かれる。もっともな疑問だと思う。だからこの記事は、うまくいった手順を並べるだけでなく、その疑問に自分なりに答える形で書いてみる。
まず全体像を図にした。文章だけで説明するより早いはずだ。

一番強い反論から潰しておく
「フォルダを3つくらいに分けて、ファイル名にルールを決めておけば十分では」というのが、最も筋の通った反論だと思う。実際、最初の数週間はそれで足りていた。
崩れたのは、素材が増えてからだった。「後で整理しよう」と思って放り込んだファイルが90件を超えたあたりから、どれが片付いていてどれが手つかずか、見た目だけでは判断できなくなった。台帳ファイル(「処理済み一覧.md」的なもの)を作って管理しようとしたこともあるが、記録と実態はすぐにズレた。ある時、数百件規模のPDFが「後で」と言われたまま数週間放置されているのを見つけて、これは仕組みの問題だと気づいた。
結局落ち着いたのは、状態を記録で表さず、置き場所そのもので表すというルールだった。未処理フォルダと処理済みフォルダを物理的に分ける。台帳を書き忘れても、ファイルが今どこにあるかで状態が一意に決まる。「フォルダを分けるだけで十分」という反論は、素材の量が一定を超えるまでは正しい。超えた後にどう壊れるかまで含めて考えると、置き場所を状態の記録装置として使う設計に理由が出てくる。
これは自分だけの思いつきではなく、松尾研究所が公開しているPersonal Knowledge Base構築の実践記録が提唱する「capture(集める)→Daily(人間が1枚を見て監査する)→Distill(蒸留する)」という3段構成と同じ発想だと後で知った。人が全体を1枚で差配できる「監査の中間層」を挟む、という考え方は、自己流にたどり着いた結論が既にある方法論と重なっていたという意味で、我流ではなかったことの裏付けにもなっている。
新聞社が記者と校閲を分けるのと同じ理由
もう一つ増やしたのが、AIの役割分担だった。最初は一人のAIに何でも頼んでいたが、Web調査・素材整理・wiki編集・スクリプト実行・セキュリティ確認を同じ会話でやらせると、今どの作業をしているのか自分でも見失うようになった。
これは技術の話というより、分業一般の話に近いと思う。新聞社が取材した記者にそのまま紙面のチェックまでさせないのも、会社が経理と営業を同じ人に任せないのも、理由は同じだ。一人の判断に頼ると、その人が見落とした穴も一緒に通ってしまう。役割を分けるのは効率のためだけでなく、見落としを一人の視点に閉じ込めないためでもある。
ただし、役割を分けるだけでは「AI待ちの次に統合待ち」という別の渋滞が起きる。複数のAIが同じ調査を重複してやったり、返してくる形式がバラバラで結局全部読み直すことになったりした。効いたのは、依頼するたびに次の5点を毎回明示するようにしたことだった。
依頼のたびに埋める「委任カード」5項目(コピペして使えるひな形)
- 役割 — 何の担当として呼んでいるか
- 担当範囲 — どこまでやるか(他の担当と重複させない)
- 参照してよい情報 — 読みに行ってよい範囲を限定する
- 返却形式 — 何をどんな形で返すか
- 完了条件・禁止事項 — 何をもって完了か、何をしてはいけないか
この5行を埋めずに「いい感じに整理しておいて」と丸投げすると、たいてい上に書いた渋滞が起きる。逆にこの5行さえ埋めれば、AIの種類やツールが変わっても同じ考え方で使い回せる。分業は、境界線を決めて初めて分業になる。
セキュリティ専門を独立させた効果と、自分の記録を疑うという教訓
役割分担の中で、後から入れて一番効果があったのが「情報漏洩防止だけを担当する」役割だった。外部に情報を渡す操作の前に必ずこの担当に確認させ、懸念が解消するまで実行しないというルールにした。
これが実際に機能した場面があった。普段使いの延長で有効化していた連携ツールの中に、設定次第で第三者がメモの中身を見られる状態になりうるものが見つかったのだ。作業をしていた自分自身は気づいていなかった。整理・執筆をする役と、それを疑って確認する役を分けていなければ、おそらく見逃したままだった。
もう一つ、痛い教訓もあった。あるツールの不具合について、2日間「開発元の修正待ち」と自分(AI)が診断して調査を止めていたことがある。後で見直すと、実際の原因は自分の環境設定の不足で、修正は数分で終わるものだった。「未解決」と書かれた記録は、書いた本人の誤診断の結果かもしれない——これは今もチェックリストに残している。校閲役を立てても、その校閲役自身の記録を無条件に信じてよいわけではない、ということだと思う。
もし数ヶ月前の自分がこの仕組みを見たら
正直に書くと、数ヶ月前の自分がこの記事を読んだら「凝りすぎでは」と言うと思う。AIに任せる範囲を広げるほど、権限の設計・確認のタイミング・検証の仕組みを併せて作り込む必要があり、実際に仕組みの移植作業中、書き込み処理のミスでファイルの一部を壊す事故も起こした。「動いた」で終わらせず、書き込み前後で壊れていないか確認する手順を後から足したのは、その事故があったからだ。便利さと同じ速度で、事故の芽も増える。
それでも今の自分が続けているのは、壊れた箇所を直すたびに、次に同じ壊れ方をしない仕組みが1つ増えていく感覚があるからだ。数ヶ月前の懐疑と、今の実感は、たぶんどちらも正しい。個人のメモ整理にここまでやる必要があるかと聞かれれば「趣味と実益の中間」としか言えないが、ブックマークやメモが日に日に増えて自分では追いきれなくなっている人には、役割を分けて任せるという発想そのものは参考になるはずだ。
この記事で持ち帰れるものは2つに絞れる。「状態は記録でなく置き場所で表す」というフォルダ設計と、依頼のたびに埋める委任カード5項目。どちらも今日から自分の環境でそのまま試せる。

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